2015.08.14 23分間の奇跡
books A to Zで紹介されていた1冊です。
ふふっ、ホントこちらの紹介から本を探すことが増えちゃいました。
ま、それはいいや。

ジェームズ・クラベルさんの著作です。
原題は『The Children's Story… but not jusut for children』となっていて
だから、基本は児童書… なのかな、たぶん。
日本語訳をされたのは青島幸男さん(おぉっ!)で
それを踏まえて、なのか、文章のほとんどは平仮名表記です。

ではありますが、内容は、相当怖いです。
「正義」「理想」「自由」・・・
これが、どれだけ頼りない概念なのかということが身にしみます。
以前書きましたが
「愛国」「憂国」と言う考え方自体は悪くなくても、
使う人、使い方次第で、凶器になるのと一緒かなぁと思います。

この本の紹介を聞いた時、真っ先に連想したのが
アルフォンス・ドーデの『最後の授業』と『最初の授業』。
確か内容としては、生徒に厳しい先生を好きではなかったけれど
実は、その先生は深く生徒たちを愛していたということを最後の授業で知って、
けれども敗戦のため、その学校がある地域は
今までとは別の国の一部になり、新しく自分たちを教えるように派遣された教師は
生徒のことを何とも思わないようなひどい人で
今まで自分がどれほどすばらしい先生に教わっていたのかということを
思い知るって話だったように記憶しています。

確かに、それと似たシチュエーションではあります。
でも、違う。
もっともっと怖い方向で違うんです。

『最初の授業』の中、新しく来た教師はひどい教師のような描かれ方をします。
うんそう。分かりやすいんです。
読み手は、のっけから眉をひそめて読んでいい感じです。

が、この『23分間の奇跡』はそんなすんなりじゃない。
今まで、生徒たちを教えていた教師は、
価値観を押し付け、国旗への忠誠を強制的に誓わせるような教師。
思想統制を行っていたかのような印象を受けます。
対して、新しくやってきた教師は
若くて、綺麗で、”自由と平等”の匂いをさせています。
無理やり国旗に忠誠を誓わせたりしません。
今までの先生のように、疑問を口にすることをとがめたりせず、
自分がみんなに質問するように、みんなが自分に質問していいと
おおらかに言い放つんです。
みんなのお父さんたちは、今は間違った考え方をしているので
その考え方を正すために大人たちの学校へ通っている。
だから、戦争に負けたけれど、殺されたりしたわけじゃなく、
もうすぐ、みんなのところへ帰ってくるのよ、と言い
さりげなく、今までの考え方が間違っていたんだ問うことを印象付け、
家族を返すという発言で、憎しみの気持ちを魔法のように消してしまいます。

神様は祈れば何でも願い事をかなえてくれるわけじゃなく、
願い事をかなえるのは、人間なんだということを言ったり、
子どもだって親に対して秘密を持ったって構わないんだ
なんてことを言ったりとかね、します。

言ってることは、間違ってないように思います。
至極まっとうに思える。
でも、ラスト近くで、この一連の言動はマニュアルどおりなのだということが
読み手には明かされます。
その時の、ぞわっと逆毛立つその瞬間の感覚と言ったら…!!!

思想を押し付けるという、分かりやすい方法ならば、戦い易い。
ただ、反発すればいいんですから。
でも、この物語のように、音もなく静かに思想を別の色に染め上げる方法は
抗うのが難しい。
だって、初めからそれが正しかったということを自分が考えていたように
錯覚させてのことだから。

何が正しくて、何が間違っているのか
自分の立っている場所は果たして本当に自分が選んだ場所なのか
読み終わると、混乱の極みです。

何とも不安になる1冊です。
でも、お勧め。
老若男女、すべての人にお勧めだけれど、
特に未来ある人にお勧めです。


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